盛岡地方裁判所 平成7年(ワ)217号 判決 1998年4月24日
原告
岩崎レ子
原告
太田孝子
右原告ら訴訟代理人弁護士
菅原一郎
同
菅原瞳
同
佐々木良博
被告
協栄テックス株式会社
右代表者代表取締役
達増崔夫
右訴訟代理人弁護士
大沢三郎
主文
一 被告は、原告岩崎レ子に対し、金二九五万五二三二円及び平成一〇年三月八日限り金九万二九七三円をそれぞれ支払え。
二 被告は、原告太田孝子に対し、金八〇万八二一七円を支払え。
三 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、これを三分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。
五 この判決は、原告ら勝訴部分に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 原告らが被告に対し、労働契約上の権利を有することを確認する。
2 被告は、原告岩崎レ子に対し、金三〇七万七二二四円及び平成一〇年三月以降毎月八日限り金九万六五六一円を支払え。
3 被告は、原告太田孝子に対し、金二三九万六九〇一円及び平成一〇年三月以降毎月八日限り金一三万二六九一円を支払え。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
5 第2項、第3項につき仮執行宣言。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 被告は、建物の総合維持管理、病院における食器洗浄、下膳及び盛付補助業務などを営む会社で、現在約七〇〇名の従業員を有している。
2 被告は、平成五年一二月から、学校法人岩手医科大学と同大学付属病院の患者給食部門(以下「医大病院の現場」という。)のうち食器洗浄、調理場と病棟各階間の配膳車による配膳、下膳などの仕事を請け負っている。
3(一) 被告の就業規則によると、被告が雇用する者は従業員と特別勤務者に区分され、さらに特別勤務者はアルバイト、パートタイム、臨時雇用、嘱託雇用等に細分されている。
(二) 平成七年三月当時、被告が医大病院の現場での業務を行うために雇用していた者の身分は、いずれも特別勤務者であった。
4(一) 原告岩崎レ子(以下「原告岩崎」という。)は、昭和一三年二月一五日生まれであり、昭和六三年九月上旬に被告と労働契約を締結したが、その内容は次のとおりであった。
(1) 身分 パートタイム
(2) 職種 給食補助員
(3) 就業場所 県立中央病院
(4) 就業時間 午前八時から午後〇時
(5) 賃金 日額二〇〇〇円とし、毎月二五日に締め切り、前月二六日から当月二五日までの分を翌月八日に支払う。
(二) 原告岩崎は、右契約にあたり、被告から雇用期間の説明は受けなかったが、就職直後、雇用期間を昭和六三年九月六日から平成元年四月一〇日までとする雇用契約書に署名押印し、その後も、平成元年から平成五年にかけて、毎年三月ころ、それぞれ雇用期間を翌年四月一〇日までとする雇用契約書に署名押印してきた。
(三) 原告岩崎は、平成五年一二月二一日以降、医大病院の現場で食器洗浄と下膳などの業務に従事してきた。
(四) 原告岩崎は、平成六年三月ころ、雇用期間を同年四月一日から平成七年四月一〇日まで、就業時間を午前八時三〇分から午後〇時三〇分まで、時給を六一〇円等とする雇用契約書に署名押印した。
5(一) 原告太田孝子(以下「原告太田」という。)は、昭和一一年八月一九日生まれであり、平成五年一二月一七日ころに被告と労働契約を締結したが、その内容は次のとおりであった。
(1) 身分 パートタイム
(2) 職種 食器洗浄
(3) 就業場所 医大病院の現場
(4) 就業時間 午前七時から午後四時
(5) 賃金 時給六一〇円とし、毎月二五日に締め切り、前月二六日から当月二五日までの分を翌月八日に支払う。
(二) 原告太田は、右契約にあたり、被告から雇用期間の説明は受けず、雇用契約書も作成しなかったが、平成六年三月ころ、雇用期間を同年四月一日から平成七年四月一〇日までとする雇用契約書に署名押印した。
6(一) 医大病院の現場における被告の業務は、次のとおり行われていた。
(1) 早出勤務 勤務時間は、午前七時から同八時まで(その後、午前八時三〇分からの午前勤務に就く。)業務内容は、朝食の配膳
(2) 午前勤務 勤務内容は、午前八時三〇分から午後〇時三〇分まで業務内容は、朝食の下膳・食器洗浄・昼食の配膳
(3) 午後勤務 勤務時間は、午後一時から午後四時まで
業務内容は、昼食の下膳・食器洗浄(なお、夕食は、午後勤務に引続いて夜間勤務に就く者が配膳する。)。
(4) 夜間勤務 勤務時間は、午後六時から午後九時業務内容は、夕食の下膳・食器洗浄
(二) 被告は、平成七年四月一日当時、医大病院の現場での業務のため、原告らを含む二一名の者を雇用していたが、原告岩崎は、主として午前勤務、原告太田は主として早出勤務、午前勤務及び午後勤務に従事していた。
7(一) 被告は、平成七年三月一一日、医大病院の現場に勤務している原告らに対し、「パート雇用契約期間満了についてのお知らせ」と題する文書を交付し、同年四月一〇日をもって雇用契約の期間が満了する旨通知した。
(二) 被告は、同年四月三日、医大病院の現場に勤務する者のうちから、原告ら、訴外菅玲子、同佐藤エイ子及び同藤沢なほ子(原告両名以外の三名はいずれも午前勤務に従事していた。)に対し、同月一〇日をもって雇用関係を終了させる旨の意思表示をした(以下「本件意思表示」という。)。
(三) 被告は、医大病院との間で、平成六年一二月一日、医大病院の現場での業務請負契約を、平成七年一一月三〇日までの条件で更新し、さらに、同年三月、期間を同年四月一日から平成八年三月三一日までと更新した。
8(一)(1) 原告らと被告との労働契約は、契約締結にあたって雇用期間についての話合いなど一切なく、その後、雇用契約書に形式的に署名押印してきただけであって、雇用期間に関する合意は存在せず、期間の定めのない労働契約といえるから、本件意思表示は解雇の意思表示というべきである。
(2) 仮に、原告らと被告との労働契約が、期間の定めのある労働契約であるとしても、右労働契約は、被告が医大病院の現場の業務請負契約を打ち切られるなど真に已むを得ない事情がない限り、原被告双方とも、その期間満了後も更新継続されるものと考えていたのであるから、実質的には期間の定めのない労働契約と異ならないものであり、本件意思表示を雇止めと解したとしても、解雇に関する法理が類推して適用されるべきである。
(二)(1) 本件意思表示は、被告の医大病院の現場での業務請負契約が、平成七年四月以降においても、それ以前の契約と何らの変化もなく、稼働人員を縮小する必要も全くなかったから、解雇又は雇止めのいずれと解したとしても、権利を濫用したものとして無効である。
(2) 本件意思表示は、原告らが、平成六年夏ころに建設一般労働組合に加入し、同組合の分会をつくる活動を始め、同僚たちにも加入を働きかけるなどしていたため、これを嫌悪した被告が期間満了を口実に行ったものであるから、解雇又は雇止めのいずれと解したとしても、不当労働行為として無効である。
(3) 仮に、医大病院の現場の稼働人員を縮小させる必要があったとしても、本件意思表示は、原告両名とも、欠勤、遅刻、業務上のミスなどなく優良な状態で勤務していたのであり、人員整理の対象となる理由がないから、解雇又は雇止めのいずれと解したとしても、権利を濫用したものとして無効である。
9(一) 原告岩崎の平成六年一二月分から平成七年二月分までの月当たりの平均賃金額は九万六五六一円であるが、被告は、同原告に対し、同年四月分からの賃金の支払をしていない。
なお、原告岩崎は、平成七年五月から同年七月までの間、ホテルニューカリーナにて稼働し、合計二〇万五八五〇円の賃金を得ている。
(二) 原告太田の平成六年一二月分から平成七年二月分までの月当たりの平均賃金は一三万二六九一円であるが、被告は、同原告に対し、同年四月分からの賃金の支払をしていない。
なお、原告太田は、平成七年五月から平成九年六月までの間、日本オイラーなどで稼働し、合計二一一万四五九三円の賃金を得ている。
10 被告は、原告らとの労働契約は終了したとして、原告らの就労を拒否している。
11 よって、原告らと被告との間の労働契約に基づいて、労働契約上の権利の確認及び自己の債務を免れたことにより得た利益分を控除した未払賃金内金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1ないし4(一)の事実は認める。
2 同4(二)の事実は、被告から雇用期間の説明を受けなかったとの点を否認し、その余は認める。
被告は、原告岩崎の雇用に当たり、当初の契約において昭和六三年九月六日から翌年四月一〇日までとすること、その後の契約更新においても、雇用期間を一年とすることを確認し、期間を一年とする理由についても説明し、同原告の了承を得、さらに、その都度雇用期間を一年間と明記した「雇用契約書」に同原告の署名押印を得て、これを同原告に交付してきた。
3 同4(三)、(四)、同5(一)の事実は認める。
4 同5(二)の事実は、被告から雇用期間の説明を受けなかったとの点を否認し、その余は認める。
被告は、原告太田の雇用に当たり、当初の契約の期間を平成六年四月一〇日までとすること、その後、期間を同年四月一一日から平成七年四月一〇日までとすることを確認し、期間を一年とする理由についても説明し、同原告の了承を得、さらに、右期間を明記した「雇用契約書」に同原告の署名押印を得て、これを同原告に交付した。
5 同6(一)の事実は、早出勤務及び午後勤務が存在することを否認し、その余は認める。
同(二)の事実は認める。
6 同7(一)ないし(三)の事実は認める。
被告は、平成七年三月一一日のミーティングにおいて、原告らパートタイム従業員に対し、平成七年度の業務委託契約が厳しい状況になる見込であり、会社としても経費節減等合理化をして対応せざるを得ない旨の説明をして了承を得、さらに、パートタイム従業員の雇用期間が同年四月一〇日に満了になるところ、一部の者には雇用関係を同日で終了させる旨伝えて予め対応を考慮しておくよう要望していた。
7(一) 同8ないし11は、全て争う。
(二)(1) 被告は、その目的とする事業を遂行するため、顧客と業務に関する受託ないし請負の契約をすることになるが、その契約の期間がほとんど一年に限られており、期間満了により新たに競争入札などをして契約する仕組みとなっているため、業務量が恒常的に一定しておらず、一年毎に業務量に多寡が生じ、少ないときには雇用調整を図る必要があった。そのため、被告は、原告らとの労働契約及び契約の更新に当たっては、その都度、期間の定めがあること、それが短期であること並びに雇用を短期かつ有期とする理由として、右のとおり受注できる業務量が一年毎に変動することを説明し、毎月のミーティングにおいてもその旨説諭して原告らの承諾を得てきた。
(2) 期間の定めのある労働契約が反復更新されたとしても、そのことによって直ちに期間の定めのない契約に転化するとは言えないのであり、改めて当事者双方に期間の定めのない契約を締結する意思の合致がなければ、その労働契約が期間の定めのない契約となるものではない。
(3) また、被告と原告らとの雇用関係は、前記のとおり、短期かつ有期契約によるものであり、当然に更新が予定ないし期待されていたものではなく、しかも、被告は、満了日の前の平成六年一〇月から、毎月のミーティングにおいて、期間満了と同時に雇用関係を終了させることもあると予告して原告らの注意を喚起し、雇用関係の終了に備えた対応をするように求めてきた。
(4) よって、本件意思表示は、あらかじめ原告らの注意を促した上、雇用期間の終了後は労働契約を更新しないと告知したものに過ぎず、権利の濫用とはいえない。
(三) 被告は、本件意思表示をした当時、未だ、原告らが建設一般労働組合に加入していたこと、原告らがその組合員であること、右組合の分会を作ろうとしていること、同僚達に右組合への加入を働きかけていることも全く知らず、平成七年四月五日付通知書により、右組合の組織及び同分会長に原告太田が就任したことを知り、同年四月一四日付申入書により、原告岩崎も同組合員であることを知ったものであり、原告らを企業外に排除する意図で本件意思表示をしたものではない。
(四)(1) 原告太田は、遅刻出勤、早退出勤が目立ち、他の従業員との協調性にも欠けており、二名だけである早出勤務に遅刻したため、入院患者の朝食配膳が遅れるなどの不都合が生じていた。
(2) 原告岩崎は、ゴールデンウィーク、お盆、年末年始に必ず連休をとるため、他の従業員が休めず不公平感を生じており、ミーティングの都度、注意指導してきたが、それにも拘わらず連休を取り続けた。
(3) 原告らの勤務態度は、右のとおり不良であった。
8(一) 被告と原告らとの間に作成された雇用契約書には、就業規則を適用する旨記載されているところ、右就業規則によれば、被告では、定年を満六〇歳とし、定年に達した月の末日をもって退職とするとされているから、原告岩崎は平成一〇年二月末日に、原告太田は平成八年八月末日に、それぞれ被告の被用者としての資格を失った。
なお、定年に達した者については、被告が業務上必要と認めた場合に限って、期間を定めて勤務を延長したり、あるいは再雇用をすることがある。
(二) また、原告岩崎が他の事業所で就労稼働して得た賃金収入二〇万五八五〇円及び原告太田が他の事業所で就労稼働して得た賃金収入のうち平成八年八月末日までの分は、原告らの本訴請求からそれぞれ控除されるべきである。
三 原告らの再反論(定年制の主張について)
被告の就業規則二条二項の「特別勤務者」には、同条一項の「従業員」に関する定年制は適用にならず、また、特別勤務者の労働時間、賃金などの労働条件の特殊性、担当する業務の性格からみても、定年制を適用する必要性もない。さらに、現に六〇歳を超えた者が被告の現場で稼働してもいる。
第三証拠関係
本件記録中の証拠関係目録に記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 請求原因1、同2、同3(一)、(二)、同4(一)ないし(四)(ただし、(二)の事実中、被告から雇用期間の説明を受けなかったとの点を除く。)、同5(一)、(二)(ただし、被告から、雇用期間の説明を受けなかったとの点を除く。)、同6(一)、(二)(ただし、(一)の事実中、早出勤務及び午後勤務の点を除く。)及び同7(一)ないし(三)の事実は、いずれも当事者間に争いがなく、証拠(<証拠略>)及び弁論の全趣旨によれば、朝食の配膳を担当するため午前七時から出勤し、その後、午後四時まで勤務する早出勤務及び午後一時から午後五時まで勤務する午後勤務の体制が存在することが認められる。
二 解雇について
1 証拠(<証拠・人証略>)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。
(一) 昭和六三年九月に原告岩崎が被告で稼働を始めた際には、特に被告から雇用期間についての明確な説明はなかったが、平成元年以降平成六年に至るまでは、毎年三月ころ、雇用期間を各年四月一一日から翌年四月一〇日までと明示された同原告の署名押印のある雇用契約書が作成され、これが同原告にも交付されていた(右契約書が作成され、同原告に交付されていたことは当事者間に争いがない。)。
(二) 平成五年一二月一一日から原告太田が被告で稼働を始めた際には、特に被告から雇用期間についての明確な説明はなかったが、平成六年三月ころ、雇用期間を同年四月一日から平成七年四月一〇日までと明示された同原告の署名押印のある雇用契約書が作成され、同原告に交付されていた(右契約書が作成され、同原告に交付されていたことは当事者間に争いがない。)。
(三) 被告は、その目的とする事業を遂行するために顧客と業務に関する受託ないし請負の契約を締結していたが、その契約の期間がほとんど一年に限られており、期間満了の都度新たに競争入札などをして契約する仕組みとなっていたため、業務量が恒常的に一定しておらず、一年毎に業務量に多寡が生じ、少ないときには雇用調整を図る必要があり、原告らも、その仕組みについては概ね了知していた。
(四) 被告の就業規則(平成三年四月一日実施、平成五年四月一日改定)によれば、特別勤務者(正社員を除くアルバイト、パートタイム、臨時雇用、嘱託雇用等の名称を持つ被用者)については、就業条件等はその都度決定する(二条二項)こととされているが、その他特に定めはない。
2 右認定の事実によれば、原告らは、最初の労働契約の締結時に雇用期間についての明確な説明がなく、また、原告岩崎については相当回数更新を重ねてきたといった事情を考慮しても、毎年期間を一年と明確に定める雇用契約書に署名押印してその契約書の交付を受けていたのであるから、その契約内容を了知していたものといわざるを得ず、被告の業務形態、その就業規則の内容など右認定にかかる事実からすれば、原告らと被告との労働契約が原告らが主張するような期間の定めのない労働契約であるとか、あるいは実質的には期間の定めのない労働契約と同視できるものであるとまで認めることはできない。
そうすると、本件意思表示が解雇あるいは解雇の法理を類推適用すべきことを前提とする原告の主張は理由がない。
三 権利の濫用について
1 証拠(<証拠・人証略>)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。
(一) 被告では、労働契約に定める期限が到来した場合にも、顧客との業務請負契約の打切りによる業務縮小がない限り、継続して労働者を雇っていくという方針であり、その場合、特に労働者に対して継続して稼働するかどうかの意思確認はせず、当然継続して稼働することを前提として、雇用期間の終了前に勤務予定表などを作成して稼働日の調整をしていた。
(二) 被告の従業員であった佐藤文隆(以下「佐藤」という。)は、平成六年六月ころ、医大病院の現場においてビラを配布するなどしてその所属する全日自労建設農林一般労働組合(以下「訴外労働組合」という。)の活動をするとともに、そのころから原告岩崎及び同太田を勧誘し、原告ら及び同じ医大病院の現場での業務に就いていた訴外佐藤エイ子、同藤沢なほ子の四名を訴外労働組合に加入させた。
(三) 被告は、訴外佐藤が医大病院の現場での業務を無断欠勤するなど職場放棄の行為を頻繁に行ったため、同年一二月、同人に対し、職場転換の辞令を出したところ、同人がこれを拒否したため、同月二四日、訴外労働組合の担当者を交えて話し合った結果、訴外佐藤に職場転換を受け入れさせたが、それでも同人の職場放棄等がやまないため、平成七年二月九日、盛岡労働基準監督署に対し、訴外佐藤の解雇予告手当除外認定の許可申請を出し、同年三月二日、右許可を受けた。
(四) 被告は、平成六年一一月ころから、月一回程度、医大病院の現場での業務に就いているパートタイム従業員を集めてミーティングを開始し、仕事上の指示、注意の外、原告らパートタイム従業員の労働契約が一年契約であるとの説明をするようになった。
被告は、平成七年三月一一日のミーティングにおいて、同年四月一〇日をもって雇用期間が終了する旨の内容の通知書を原告らに渡し(当事者間に争いがない。)、右期日をもって労働契約を終了させる人もいる旨の説明をしたが、従前、右のような通知書が被告において作成されたことはなく、しかも、右通知書が交付されたのは、医大病院の現場での業務に従事する者だけであった。
(五) 被告は、同年四月三日、原告らのほか、訴外管(ママ)玲子、同佐藤エイ子及び同藤沢なほ子に対し、同月一〇日をもって労働契約を終了させる旨の本件意思表示をした(当事者間に争いがない。)。
原告ら、訴外佐藤エイ子及び同藤沢なほ子の四名は、同月五日ころ、これに対抗して訴外労働組合岩手県本部盛岡地域支部ビルメン分会を結成し、原告太田が右分会の分会長となり、被告と交渉することとなった。
(六) 被告は、平成七年三月ないし四月ころ、経営上人員を削減する必要性がなく、医大病院との業務請負契約も同年三月には既に更新のための契約をしていたが、医大病院の現場の業務に就いていた原告らを含む五名のパートタイム従業員について、同年四月の労働契約の更新を行わなかった(人員削減の必要性の点を除いて、当事者間に争いがない。)。
(七) 同年四月に労働契約の更新がされなかった原告らを含む五名のうち、訴外労働組合の組合員となっていない訴外管(ママ)玲子については、同年五月から被告に再雇用されている。
(八) 被告では、平成七年四月以降、パートタイム従業員について、労働契約が更新されなかった例はない。
2 被告は、国民年金センターとの業務請負契約の解除による過剰人員四名を医大病院の現場で業務に就かせるため、原告ら五名について労働契約を更新しなかった旨主張し、(人証略)の供述はこれを窺わせるものである。
しかしながら、(人証略)は、国民年金センターで働いていた四名の従業員の氏名を特定できないだけでなく、国民年金センターの現場での業務に従事していた四名のうち三名は、平成七年四月の医大病院の現場への異動の前に辞めた旨供述しているのであって、そうとすれば、右三名は、原告らに対する本件意思表示前に辞めていること、前記したところから明らかであり、これに国民年金センターの現場と医大病院の現場では、その業務内容が全く違うことが窺えることをも考慮すれば、(人証略)の右供述部分は、到底信用のおけるものではない。
そうすると、被告は、原告らを含む五名と労働契約を更新しなければ、医大病院の現場での業務に従事する人員が逼迫するにもかかわらず、あえて一度に右現場から五名の人員の削減に踏み切ったことが明らかであり、合理的理由がないのに原告らとの労働契約を更新しなかったことになる。
3 前記三1認定の事実に右2の判断を総合して検討すると、被告は、少なくとも平成六年末までには、訴外労働組合に原告ら、訴外佐藤エイ子及び同藤沢なほ子が加入していたことを知っており、これらの者を企業外に排除するため雇用期間満了にかこつけて、人員縮小の必要もないのに、あえて原告らの労働契約を更新しなかったものと推認するのが相当であり、そうであるとすれば、被告は、原告らが訴外労働組合に加入していることをもって差別的な取扱いをしたものと解せざるを得ないから、被告が原告らとの労働契約を更新しなかったことには何ら正当な理由がないものというほかない。
4 なお、被告は、原告らの勤務態度が悪かったことをも労働契約の更新をしなかった理由としてあげているので、以下検討する。
(一) まず、被告は、原告岩崎について、人手の不足しがちなゴールデンウィーク、お盆、年末年始に連続して休みをとった旨主張するが、証拠(<証拠略>)によれば、原告岩崎の勤務状況は、平成五年一二月から翌六年一月までの年末年始についてみれば、正月三が日に休みを取っているとしても、年末は三一日まで勤務しており、同年五月のゴールデンウィークについてみれば、同月四日及び五日と休みを取っているものの、同月一日から三日までは勤務しており、同年八月の旧盆についてみれば、八月一五日及び一六日は休みを取っているものの、同月一〇日から一四日までは勤務していることが認められるのであって、他の被用者と比べて格別に非難を受けるような休みの取り方をしているとは到底解し得ないから、これをもって、原告岩崎の勤務態度に問題があったと認めることはできない。
(二) 次に、被告は、原告太田について、遅刻出勤、早退出勤が多かった旨主張するが、被告の主張する原告太田が半日だけ出勤して早退しているとの点は、例えば、平成六年一二月は、本来の稼働日数を超えて午前勤務を二回、早出勤務を二回やったというように(<証拠略>)、本来の割当て上は休日であった日に同原告が被告の必要上出勤して半日ないし一時間だけ稼働したことをいうものであって、これをもって「早退」とするのは全くいわれのないことである。
もっとも、証拠(<証拠略>)によれば、原告太田について、平成七年の一月から三月の間、午後四時までの勤務時間であるにもかかわらず、午後三時以降午後四時までの間に早退したことが五回、午前七時からの勤務時間であるにもかかわらず、一分ないし二分遅刻したことが五回あり、その場合でも被告から賃金を減額されることはなかったことが認められる。これらは、被告も賃金の全額を支給していたことからすれば、とりたててあげつらうような程度のものとも考えられないし、しかも、被告の右主張は、本件訴訟の提起後、被告がタイムカードを調べて初めて分かったことであり、その当時、全く問題となっていなかったことが認められるのであるから、これをもって、原告太田の勤務態度に問題があったと認めることはできない。
(三) さらに、被告は、原告太田の早出出勤の遅刻により、医大病院の担当者から苦情を申し出られたことがあった旨主張し、(人証略)の供述はこれに沿うものであるが、同人の供述によるも、苦情があったのは一度きりであり、しかも、遅刻出勤したのが早出出勤を担当していた原告太田か訴外佐藤のいずれであるのかはっきりしないというものであり、前記した原告太田の出勤状況及び訴外佐藤の頻繁な無断欠勤といった事情に鑑みれば、右苦情が原告太田の行為にあった旨の被告の主張をにわかに認めることはできない。
(四) その他本件記録を精査しても、原告らの勤務態度が不良であったことを窺わせる事実を認めることはできない。
5(一) ところで、たとえ期間の定めのある労働契約であったとしても、労働者において、その更新について相当程度の期待がもたれる事情が認められ、一方、雇用者においても更新を拒絶するについて正当な理由がない場合には、右更新拒絶は権利の濫用として無効になると解するのが相当である。これを本件についてみれば、原告らと被告の間の労働契約については、原告らにおいて、医大病院の現場での業務に特段の事情の変更がないところから、これまでと同様に右契約が更新されることについて相当程度の期待を持ち得る事情があり、他方、被告においても、原告らのようなパートタイム従業員について、特段の事情の変更がなければ当然に労働契約を更新するのが通例の扱いであったのに、前記したとおり、その勤務態度につきとりたてて問題もない原告らについて、訴外労働組合に加入していたというただそのことをもって右契約の更新を拒絶したものというべきであり、右更新拒絶に正当な理由があると言えないことは明らかであるから、本件意思表示は権利の濫用として無効なものと解するのが相当である。
(二) 右のように、期間の定めのある労働契約の更新拒絶が無効である場合には、従前の労働契約が当然に更新され、その結果、その更新の蓋然性が認められる限りにおいて、原告らと被告との間で従前と同様の条件による労働契約が、継続していくものと解すべきである(なお、更新拒絶が無効となる前提として、前記のとおり、更新されるのが通例である状況が認められるべきであるから、右前提がある以上、たとえ期間の定めのある労働契約といえども、右契約の更新は翌期に限られず、更新の蓋然性が認められる限り、翌々期以降も更新が継続していくものと解すべきである。)。
四 定年制について
1 被告は、被告においては六〇歳の定年制が採用されているから、仮に原告らに被告との間で労働契約上の地位が存在していたとしても、被告の就業規則により満六〇歳に達した月の末日をもって原告らは被告の労働者の地位を失っている旨主張する。
しかしながら、被告の就業規則(<証拠略>)によれば、「従業員」(同規則二条一項)と原告らパートタイムなどの「特別勤務者」(同二条二項)とは截然と区別され、文言上は、定年制は右「従業員」にのみ適用され(同一二条)、また、「特別勤務者」の職務内容、賃金条件から考えても定年制をとる理由を見出すことはできないから、原告ら「特別勤務者」に直ちに定年制を適用して、当然に満六〇歳に達した月の末日をもって退職となり、労働契約上の地位を失うとは解し得ない。
2 ところで、期間の定めのある労働契約が、雇用者の雇止めの意思表示の無効によって更新されたとみなされる場合であっても、これが期間の定めのない労働契約に転化するものではなく(このことは、被告の特別勤務者中、原告らのみが、期間の定めのない優越的な地位に立つことの不合理さを考えれば明らかである。)、あくまでも、労働契約上の地位が存続するか否かは、その後も更新を重ねられるか否かの蓋然性によるべきところである。
そうすると、被告の従業員について定められた定年制が直ちに原告らに適用されるものではないとしても、右従業員の定年が六〇歳であって、たとえ従業員であったとしても当然に再雇用が認められるわけではないことに鑑みると、少なくとも、原告らにつき、満六〇歳に達する月の末日までは右契約上の地位の存続の蓋然性を認めることができるが、それ以降については、右時期が更新の一応の見直し時期と解される以上、存続の蓋然性を認め得ることはできないものというべきである。
そうすると、原告岩崎については平成一〇年三月末日、原告太田については平成八年八月末日をもって、いずれも労働契約上の権利を失ったものというべきである。
五 未払賃金について
1 原告岩崎について
証拠(<証拠略>)及び弁論の全趣旨によれば、原告岩崎の本件意思表示があった当時の平均月収は、九万二九七三円と認めるのが相当である(交通費は、実費弁償を基本とするので含めない。)。
したがって、原告岩崎には、平成七年四月分(同月分については全く支払われてはいないものと認めた。)から本件口頭弁論終結の日までに賃金支払期日が到来した平成一〇年一月分までの三四ヶ月分の賃金合計三一六万一〇八二円から、同原告が他の事業所で稼働したことによって得た利益であることが明らかな二〇万五八五〇円を控除した二九五万五二三二円及び同原告が満六〇歳に達する月である平成一〇年二月分の賃金九万二九七三円をその支払日である本件口頭弁論終結の日の後である同年三月八日限り支払を受ける限度で被告に対し未払賃金請求権が生じている。
2 原告太田について
証拠(<証拠略>)及び弁論の全趣旨によれば、原告太田の本件意思表示があった当時の平均月収は、一二万九一〇三円と認めるのが相当である(交通費は、実費弁償を基本とするので含めない。)。
したがって、原告太田には、平成七年四月分(同月分については全く支払われていないものと認めた。)から同原告が満六〇歳に達する平成八年八月分までの一七ヶ月分の賃金合計二一九万四七五一円から、同原告が他の事業所で稼働したことによって得た利益のうち右期間に対応する利益であることが明らかな一三八万六五三四円を控除した八〇万八二一七円の限度で被告に対し未払賃金請求権が生じている(特定の金銭債権のうち一部を自ら控除して残部につき内金請求をする場合には、右内金請求が一部認容となる場合には、控除されるのは右認容部分に対応すべき部分であると解する。)。
六 結論
よって、原告らの本訴請求は、未払賃金請求については主文第一、第二項記載の限度で理由があるからこれを認容し、その余の未払賃金請求及び労働契約上の権利の確認請求については理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六四条、六五条、六一条を、仮執行の宣言につき同法二五九条一項を適用して主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結の日 平成一〇年二月一三日)
(裁判長裁判官 栗栖勲 裁判官 中村恭 裁判官大沼洋一は、転任のため署名押印することができない。裁判長裁判官 栗栖勲)